2015年5月28日木曜日

僕らのゴールデンタイム

 5月後半、仕事がひとくぎりしたのを見計らって親友と山川を丸一日駆け回って来た。
今回の舞台は飛騨地方を流れる宮川水系のとある谷。白々と夜が明けた頃に現場に到着して早速準備を始めるが放射冷却もあり中々の寒さだった。インナーダウンの上にフリースまで着込んでのスタートとなったが、道路にある温度計では5度となってたのだから無理もない。

スタートから昼までは本流で一発大物を狙ってみたものの、これが裏に入り前半戦は全くもって良いところ無しと言うありさまだった。大物が潜むようなポイントは「いつ食って来るかっ!」と言うワクワク感が想像力をかき立てて楽しい半面、スカをくらうと全く魚の顔さえ拝めない事が多い。そのまま大場所で粘るか、谷に入って魚の顔を見に行くかはいつも難しい判断である。

今回はまともに寝ていなかった事もあり、車の中で小一時間の仮眠を取りながら後半戦の釣りに備え、昼からは綺麗な谷イワナに癒されに行く事にした。


林道を走り入渓点まで着くと、なんと前方から車が現れた。どうやらフライマンのようである。この谷は足場も良くバックも取りやすいのでフライマンには好まれそうな渓相なのだ。ここまでこれば人も居ないだろうと思っていたが、やはり釣り人同士考える事は皆同じと言う訳か...

今のフライマンが何処から何処までの区間を攻めたかは分からなかったが、先行者が表層しかナメていなかったらその後でも十分釣りが出来るはずと思い、ためらう事なく二人して川原まで降りて行った。

幸い、この場所には足跡は無い。ここからどれだけかの区間は本日僕らが最初の訪問者のようだ。キャストを始めると早速瀬の中から元気の良いイワナがウシワカに飛びついて来た。型は小さかったが出だしは好調だ。少し先でベンケイを操っていた親友も直ぐに竿を曲がらせていた。雪代も落ち着いて澄んだ流れの中を泳ぐイワナは何とも美しい。水面には朝の寒さとは打って変わって夏が来たような日差しが降り注いでいた。




この谷のイワナは石の色に同化するかのように全体的に黄色の体色をしているのが特徴だ。幾多の水害により、来る度に淵は砂利で埋まり魚の付き場は少なくなっている印象ではあるが、それでも懸命に命のバトンを繋いでこの谷独特の血統を残している。壊れても壊れても這い上がる命に野生の強さを感じずにはいられない。

淵や瀬で数えきれない程の魚と戯れながら谷を歩く事2時間あまり、橋の跡らしい朽ち果てたコンクリートの塊の影から今日一番の引きをするイワナが現れた。尺近くは有りそうなその魚体は今までに見た事がない程に黄色みが強く、殆ど金色と言ってもいい程の体色をしていた。これだからイワナ釣りはやめられない。これで釣った魚の写真ばかりを収めた自分だけの魚図鑑に新しい色をしたイワナの写真がまた一枚増えたのだ。久々に記憶に残る一匹との出会いだった。



谷のイワナに満足したので今度はヤマメに狙いをしぼってポイントを移動。気が付けば時間は5時半をまわりイブニングライズが起き始める頃となっていた。この場所は先ほどの谷とはそこまで離れていないものの、雰囲気はがらりと変わりヤマメの好きそうな長い瀬を持つ如何にも出そうなポイントだ。

初めて入る区間だったが有名河川だけあって車が停めれそうな所を探せば大体は川原まで降りる道がついている。ここではルアーのテストも兼ねてウシワカ65だけで勝負をしてみた。以前にも書いた事があるがこのウシワカ65、何故かルアーサイズの割に大きさを選ばず小さな個体まで釣れて来るのだ。

川原に降りるか降りないかでラフにキャストをしながら魚の反応を見ていると、直ぐに一匹目のヤマメが流れの中からルアーを引ったくった。サイズは22cm程度、ルアーと並べると実際より魚が小さく見えてしまうが、筋肉質で綺麗なヤマメだった。


やはり瀬に出ている魚を釣るのは楽しい。ヤマメやアマゴ特有のあの金属的なアタリは瀬釣りの醍醐味だろう。200mあるかないかの区間を行って帰ってする間に20〜24cm程度のヤマメを数匹、親友は良型のイワナを一匹追加してこの日の釣りは納竿となった。川から上がる時にはもう薄暗く街灯には無数の虫が群がっていた。

良くもまあこんな時間まで飽きる事なく釣り続ける事が出来るものだと自分でも関心してしまうが、釣りを趣味にしている人ならこんな経験心当たりがあるのではないだろうか。きっと魚の活性が高い低いに関わらず、釣り竿を持ってワクワクしている時間そのものが僕ら釣り人にとってはゴールデンタイムなのだろう。